社長ブログ
先祖の呪い
今日は、会社設立して23年になる。思えば遠くへ来たもんだ。
日本石油ガス(現在のENEOS)の出資を受け設立した当初の住宅リフォーム事業ちょこっとハウス(Chocotto House)から、研究開発へと大きく変容を遂げてきた。研究テーマは、多い時期には5つ以上も抱えてきた。関連会社のふくはうちテクノロジーから引き継いだダイヤモンドライクカーボン(DLC: Diamond-like Carbon)薄膜と、それを粉体化するナノクリスタルダイヤモンド(NCD: Nano Crystal Diamond)、粉体の表面増強ラマン散乱(SERS: Surface Enhanced Raman Scattering)試薬への展開、DLCの管腔構造内腔への成膜 人工血管(AVG: Artificial Vascular Graft )、真空薄膜の人工筋肉への展開 積層型静電アクチュエータ(SEA: Stacked-type Electrostatic Actuator)などだ。
昨年まで研究開発拠点とした東工大横浜ベンチャープラザ入居時代に多くのベンチャーキャピタルの訪問を受け、研究テーマを一本化するよう言われてきた。研究者としても尊敬申し上げているCYBERDYNE社の山海嘉之先生からも、一本に絞らないと死ぬまでの盆栽いじりに終わるとまで指摘されてきた。それが簡単にはやめられなかった。それぞれの研究テーマを愛していたからだ。
そのような20年におよぶ研究活動であったが、2024年は記念すべき年になった。わたしの年齢65歳(KFCのカーネル・サンダースが文無しになった歳 笑)にして、遂に会社の研究テーマをSEA一本に絞ることができた。先祖の呪いが解けたのだ(笑)。
わたしの曽祖父母のことが、一族の記録に次のように書かれている。
「彼女のもう一つの偉大さは信仰心である。(彼女の)思い出の中で最も強烈な印象を残したものは、雨滝に打たれての祈りであった」 。「よくいえば事業家、悪くいえば山師と言えそうな夫に仕え…」。これを読んで、曽祖母のことに感心すると同時に曽祖父のことを笑ってしまった。わたしにそっくりと言うか、わたしが曽祖父に似ていることに驚いてしまった。曽祖父は鉱脈を一山当てようとしてあちこちの山を掘りまくって、遂には一文無しになってしまった人だ。
2020年11月18日、わたしの少しばかり広くても根の浅いそれまでの研究人生に転機が訪れる。コロナ禍にあって、心の拠り所のひとつであったお気に入りのアプリFamilySearchからメッセージが届いた。「今日は、(あなたの曽祖父)熊田勢一郎の誕生日です!」。そのとき、わたしは心の中で次のように考えた。「人生で一度も会ったことのない曽祖父であったが、もし今、目の前にいたら、わたしにむかってなんというだろう。…曽祖父は、きっとわたしにこう言うだろう。『わしは、仕事でたくさん失敗したけれど、おまえは同じ失敗をしちゃいかんぞ!わしは、あちこちの山を掘って失敗したけれど、おまえはそうでなく、今目の前にあるひとつの穴を掘り続けなさい』と」。
DISNEYの映画HOLES穴の原作(著者 ルイス・サッカー 訳者 幸田敦子)に、次のように出ている。
Chapter 50
呪いなんてあるわけない、とスタンリーの母さんはあくまで言いはる。スタンリーの、あ
んぽんたんのへっぽこりんのひいひいじいさんが豚を盗んだという話だって、怪しいものだと思っている。でも、この物語を読んでくれたきみたちは、エリヤ・イエルナッツのひいひい孫がマダム・ゼローニのひいひいひい孫を肩に担いで山を登ったあくる日に、スタンリーの父さんが足のにおい消しを発明したと知ったなら、へえと身を乗り出すかもしれない。
Stanley’s mother insists that there never was a curse. She even doubts whether Stanley’s great-great-grandfather really stole a pig. The reader might find it interesting, however, that Stanley’s father invented his cure for foot odor the day after the great-great-grandson of Elya Yelnats carried the great-great-great-grandson of Madame Zeroni up the mountain.
先祖の呪いが解けた途端、つまり会社の研究テーマをSEAに一本化したと同時に、わたしの心の羅針盤が望む方向に針を示すようになった。妻が人生で初めてわたしの仕事を応援してくれるようになり、国際プロジェクトのお招きを頂き、研究課題の解決策に光明を見い出し、昨年末にはわたしの孫が応援に研究所を訪れてくれたのだ。
ああ、もしもー。月は語らず、ひたすらに、
映し返して、陽を、影を。
立ち上がれ、疲れた狼、力をこめてふりかえれ。
翔べ、小さき鳥よ、宙はるか、たったひとりの、わたしの天使。
If only, if only, the moon speaks no reply;Reflecting the sun and all that's gone by.Be strong my weary wolf, turn around boldly.Fly high, my baby bird,My angel, my only”― Louis Sachar, Holes
2020年11月18日の朝、FamilySearchから届いたメッセージ
HOLES穴
2024年の暮れ、研究所を訪問してくれた10歳の孫と